ベトナムのBCC契約制度を理解し、使いこなす
ベトナムで会社を設立せずに共同事業を行う方法をご存じですか?
本記事では、外資企業の進出形態として注目されるBCC契約について、仕組みや注意点、典型活用シーン、モデル条項、登録手続きまでを、弁護士が実務目線で徹底解説します。
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目次
- 01|BCC契約とは? 会社を作らずに共同事業を回す仕組み
- 02|メリットと落とし穴(使う前に必ず押さえるポイント)
- 03|どんな時に最適? BCCが“効く”典型ケース
- 04|実務に効くモデル条項(不動産プロジェクト例)
- 05|必要手続とオフィス設置(登録要否・設立フロー)
本稿は、ベトナムの法令・公的資料および一般的な実務運用をもとに、BCC(Business Cooperation Contract)=ビジネス協力契約の仕組みや留意点を、日本の経営者の方向けにわかりやすく整理した解説です。
具体的な案件への適用可否や要件は、事業分野・所在地・時点の運用により異なるため、最終判断前には所管当局や専門家にご確認ください。
01|BCC契約とは? 会社を作らずに共同事業を回す仕組み
定義(概要)
ベトナムのBCC契約は、複数の投資家が新会社を設立せず、契約ベースで共同事業を運営し、利益や成果物を分配する枠組みです。少なくとも1名はベトナム法人が関与します。資金・物的資産の拠出、役割分担、リスク負担、分配方法などを契約で定めます。
→ 法人格のないジョイントベンチャー型スキームと言えます。
具体例
- オフィスビルの建設・運営
- 日本食レストランの共同開業・運営
- 日本語教育センターの共同設立・運営
特徴(早見表)
| 項目 | 内容 |
| 法人格 | なし(契約ベース) |
| 出資方法 | 現金/現物(不動産・技術等も可) |
| 役割分担 | 契約で明確化 |
| リスク負担 | 契約で合意(共同負担) |
| 利益分配 | 出資比率または当事者合意 |
| 手続 | BCC契約の締結+投資登録(該当時) |
02|メリットと落とし穴(使う前に必ず押さえるポイント)
2.1 メリット
- 法人設立が不要:登記・運営の負担やコストを軽減。
- 運用の柔軟性:事業中に形成された資産を基に後から法人化も可。
- 出資自由度:現金だけでなく、不動産・技術ノウハウ・知財等での出資も可能。
→ 初期リスクを抑えつつ素早く回せるのが最大の利点。
2.2 デメリット(よくある“つまずき”)
- 運営代表の負担集中:法人格がないため、当事者の一方が代表となり、実務負荷と責任が重くなりがち。
- 管理・会計の曖昧化:裁量が広い分、会計・資金・印章・承認フローを曖昧にすると対立の火種に。
- 取引実行の不便:名義は各当事者法人を使うため、売上計上・税務・請求書発行で混乱しやすい。
→ 共同管理体制と内部統制(意思決定・会計・監査・承認権限)を契約時点で設計することが肝要。
03|どんな時に最適? BCCが“効く”典型ケース
① 条件付き投資分野への参入
外資に資格要件が課される分野で、単独では満たせない場合、ローカル企業とBCCで間接参入が可能。
② 出資比率規制を気にせず“影響力”を確保
分野によっては、合弁(JV)で出資比率が制限される一方、BCCなら比率縛りを受けにくく、実質的な支配力を設計できる場合あり。
③ 期限付きプロジェクト
プロジェクト終了時、BCCオフィスの閉鎖で完了。法人清算より軽いプロセスで撤収可能。
④ 財務出資(ファイナンス投資)をしたい
運営に深く関与せず資金参加を行う設計も可。リスク限定でリターン獲得を狙える。
04|実務に効くモデル条項(不動産プロジェクト例)
以下は住宅建設・賃貸・売却を想定した雛形の骨子です(要点を読みやすく再整理)。
- 当事者:
- 甲(ベトナム側パートナー:不動産要件を満たす/当該土地使用権の名義人)
- 乙(日本投資家または日本系企業)
- 経緯・目的:
- 甲は土地使用権を現物出資、乙は現金出資。
- 賃貸運用し、状況に応じて売却も検討。利益は出資比率で分配。
- 事業内容:
- 対象土地・建物の仕様(用途、面積、階数、構造、総投資額)を明記。
- 法人は設立せず、BCC形態で必要手続きを共同実施。
- 期間:
- プロジェクト期間(残存土地使用期間)
- 契約期間(署名日から○年)
- 出資:
- 甲:土地使用権の評価額○○VND(○%)
- 乙:現金○○VND(○%、固定)
- 追加出資は双方協議。乙の追加は権利で義務ではない。
- 投資登録証(計画投資局)取得○日以内に拠出。
- 資金調達:
- 原則、甲が調達責任。乙拠出資産に担保設定時は乙の書面同意が必須。
- 役割分担:
- 甲:BCC登録、各種許認可(投資・土地・環境・建設・消防等)取得、建設実施、計画に沿った開発・運営。
- 乙:建設・開発・運営に関する技術助言。
- プロジェクト管理委員会:
- ○名で構成(甲×名、乙×名)。原則多数決、膠着時は委員長判断。
- 事業計画・スケジュール:
- 準備/建設/運営/保守に区分。収入・利益見込を明示。
- 経費管理/会計・税務:
- 計上・申告・納税・官庁対応・取引先対応は甲が代行(※実務上の一元化)。
- 利益と分配:
- 甲:出資比率に応じた変動分配。
- 乙:固定分配(優先受領)。
- 甲が納税後、税引後利益を分配。
- 秘密保持:
- 情報の定義、使用範囲、漏洩時対応、永久存続の義務を明記。
- 契約終了:
- 完了・合意・通知後30日・重大不履行などの終了事由。
- 終了後の資料返還・公的手続、権利放棄、残余処理を規定。
- 不可抗力/違約金・損害賠償:
- 不可抗力時の通知・免責要件。
- 重大違反は契約価額の8%、その他は**義務価値の8%**の違約金+賠償。
- 準拠法・紛争解決:
- 準拠法はベトナム法、交渉→SIAC仲裁。判定は終局。
- 紛争中も事業を止めない(甲の運営継続)。
- 紛争情報の厳格な秘密保持。
- 一般条項:
- 署名権限・社内承認の保証、文書合意のみ修正可、権利不放棄、譲渡禁止、分離可能性、契約言語(越・日。齟齬時は越語優先)。
実務TIP:
固定分配 vs 変動分配を併用する設計は、投資家(乙)のリスクヘッジと運営側(甲)のインセンティブを両立しやすい一方、会計処理・税務・キャッシュフローの整合を細かく決める必要があります。
05|必要手続とオフィス設置(登録要否・設立フロー)
5.1 BCC契約の登録が必要なケース
以下のいずれかに該当する場合、投資登録機関(計画投資局等)で登録が必要です。
- 外国投資家が出資比率の50%超を保有
- 外国資本が過半のパートナーシップ組織が関与
- 上記に該当する外国資本系組織が50%超を保有
- 外国投資家+外国資本系組織の合計で50%超
5.2 **オペレーションオフィス(事業執行拠点)**の設置
外国投資家は、BCCに基づきオペレーションオフィスを設置可能。
権限:独自印章/銀行口座/雇用/契約締結(活動範囲はBCCと登録証に限定)。
設立手順:
- 管轄投資登録機関へ申請一式提出(オフィス名・所在地・活動内容・責任者)
- 外国投資家の設立決議・責任者任命、BCC契約の写し同封
- 15営業日以内に設立登録証が発行
実務TIP:
登録遅延や不備は操業開始に直結して遅れます。タイムライン逆算で準備し、見積提出先・口座開設・請求書発行までの実務導線を、BCC名義と当事者法人名義のどちらで回すかを事前に設計しておくと安全です。
まとめ
- なぜBCCか(合弁・単独設立・M&Aとの比較)
- 誰と組むか(実務能力/許認可適性/資金力/統制の取りやすさ)
- 統制設計(決裁権限・会計・印章・資金/コベナンツ)
- 出口戦略(期間、買取・売却、清算、情報・知財の帰属)
- 登録・オフィス・税務(要否とスケジュール、費用見積)
ここまで決めてから草案に入ると、交渉の迷いが激減し、立ち上げスピードが一気に上がります。
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